トルストイ『人にはたくさんの土地がいるか』を読んで

「いま、トルストイ」(帯コメントより)

文豪の文豪たるゆえんは長編ではなく小品に表れると思っていて、夏目漱石の作品でも夢十夜の第一夜が一番好きだったりするんですが、このトルストイの小品『人にはたくさんの土地がいるか (トルストイの散歩道)』もするするっと引き込まれて行って最後あっと驚く結末で終わっています。
三谷幸喜や星新一でおなじみの和田誠の表紙というのもコミカルでシュールでいいです。
話の流れとしては都心タワマン住まいの姉が市街化調整区域で農業を営んで暮らす妹夫婦のもとを訪れ、東京カレンダー顔負けのキラキラ自慢話をしたところ(東京カレンダーネタについては綾考察編を参照)、妹の旦那・パホームがそのやり取りに奮起して大地主になろうと奮闘する物語です。

しかし人間の欲とは限りないもの。パホームも広い土地を手に入れても、もっと広い土地、もっといい土地を求めてさまよいます。

子供の時 欲しかった 白い靴
母にねだり 手に入れた 白い靴
いつでも それを どこでも それを はいていた
ある日 僕は おつかいに 町へ出て
靴屋さんの前を見て 立ち止まった
すてきな靴が 飾ってあった 青い靴
井上陽水「限りない欲望」

僕が20才になった時 君に会い
君が 僕のすべてだと思ってた
すてきな君を 欲しいと思い 求めていた
君と僕が 教会で 結ばれて
指輪をかわす 君の指 その指が
なんだか 僕は 見飽きたようで いやになる
井上陽水「限りない欲望」

そう、東京カレンダー考察第3編での綾のように、得られたものに満足せず、もっともっとと限りない欲望に動かされていくのです。
そして限りない欲望に動かされた結果、謎解きにつながっていく流れは圧巻なのでぜひ読んでみてください。すぐ読める分量ですしね。
後に載っているもう一つの小品は資本主義・商業批判という感じで箸休めですね。
戦前戦後にロシア文学がバカ受けして今下火なのは農村人口が今よりずっと多かったという事情もあるのかなと思います。
農村から都市に出てきて、トルストイを読んで「農村の問題点を指摘してる!」と感動して運動に走る。五木寛之の青春の門とか似た感じですよね。
というところでお正月まだお休みある方は文豪の不動産小説を読んでみるのもいかがでしょう。

参考文献
トルストイ 人にはたくさんの土地がいるか (トルストイの散歩道)
夏目漱石 夢十夜
五木寛之 超合本 青春の門 第一部~第七部 【五木寛之ノベリスク】
東京カレンダー 【東京女子図鑑】~綾の東京物語~

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